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「妖精か……」
「そう。妖精」
「私も妖精に生まれたかったな。美しいものだけを眺めて生きられたら、それだけで幸せだよね」
ぐいと傾けた缶から酸っぱい液体が喉に流れ込んだ。喉の奥と鼻の奥がツンと痛みを発した。なんだか泣きそうだ。
「僕は柚月ちゃんが人間で良かったよ」
「どうして? 」
「だって、柚月ちゃんが妖精だったら、こうして一緒にカレーも作れなかったし、お風呂あがりに髪の毛を乾かしてもらうこともなかった。それに僕がこうして柚月ちゃんを癒してあげることも出来なかったんだよ。だから、柚月ちゃんが人間で良かった。僕は幸せだよ」
柚月の手から缶酎ハイを掠め取った朔がテーブルの上にそれを置いた。缶の中身はいつの間にか空になっていた。アルコールのせいで頭がふわふわする。
「柚月ちゃんが頑張ってること、僕はちゃんと知ってるよ」
柔らかく髪を撫でられながら、朔を呼び寄せたのは間違いなく自分なのだと確信していた。何の気なしに呟いた戯言を、神様に聞かれていたのかと思うと無性に恥ずかしくなる。
けれど、たまには胸の内を吐き出すのもいいのかもしれない。運が良ければ、こうして天使に巡り会うこともできるのだ。人生はそんなに悪いものじゃない。
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