神の手を持つ画家とマヌケな化け物

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 数日後、役目を終えた化け物は、キャンバスへ戻るため画家の元にやって来ました。  その姿は傷だらけで血もにじみ、くたくたの様子でした。 「これは酷い……」  画家は呆然とし、救急箱を取り出しに行きました。  しかし、手に取り戻ったときには、化け物はもうすでにキャンバスへと戻っていたのです。  傷だらけの体を横たえ、中でぐったりとしています。そして、弱々しい声で言いました。 「きちんと、退治されてきたよ。ぼく、えらい?」  退治されるために、生まれた化け物。  画家はなぜかうなずくことができずに、言葉をつまらせました。  化け物は瞳を閉じそうになりながら、独り言のように言葉を続けます。 「王子様は強くなったかな。自信ついたかな」 「そのために、ぼくは生まれたもんね」 「……ああ、でも」 「やっぱり、ぼく」 「愛されることも知りたかったな」  そして、すぅっと化け物はキャンバスから消えました。  役目を終えて、消えました。  それから、画家はもう二度と、神の手を使うことはありませんでした。  絵を描く道具は全て売り払い、質素な生活を送るようになりました。  ただ一つ残したキャンバスだけが、画家がもともと画家だったことを証明しました。  満月の夜、元画家はそのキャンバスを窓に向けているそうです。  その白いキャンバスに当てられる月光は、淡く輝きとてもキレイで、その中で誰かが笑っているようだと人々は語ります。 終わり
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