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第九話
翌日、早朝から出社した私は、矢野の尻を叩きながら納期の調整に奔走した。
手配がもれていた注文の指定納期は一週間後。受注から納入までに通常二週間かかるから、最低でも一週間前には工場に手配していなければならない。それが、十日以上も前に発注を受けておきながら、ずっと放ったらかしになっていたのだ。これから普通に手配をかけたら一週間の納期遅れになってしまう。
この遅れをなんとかしようと、工場の担当者に必死に頭を下げまくった。しかし、午前中いっぱいかけて交渉しても、短縮できた納期は土日を含めて五日、残りの二日はどうやっても無理というのが工場からの回答だった。
経験からいって、粘ったところでこれ以上の短縮は難しい。この段階で、もはや私は腹をくくらざるをえなかった。
さっそく購買の窓口である松野主任に電話を入れ、おおまかな事情を説明した。そして詳しい説明に伺いたいと申し出た。電話口で困った声を出していた松野主任だったが、時間はなんとか作るからとりあえず来てくれということになった。
電話を終えると、私は取るものもとりあえず会社を飛び出した。
会社を出る間際、矢野が自分も一緒に行って謝ると言い出したが、ひとりでいいと言って思いとどまらせた。
マリノス自動車側からみればメインの営業担当者は私だ。矢野に頭を下げさせたとしても、納期遅れの責任は逃れられない。それに、私には、尻込みする矢野に無理にこの仕事をやらせた負い目がある。その点からも、今回のトラブルは私ひとりで解決したかった。
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