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「全然意味が分からない。何で僕が関係あるのさ?」
「直接は関係ないよ。ただ、君がお嬢様に……」
そこまで言って、正二郎は不自然に言葉を止めた。
そうだ、お守りだ。
多分、彼女は持ってきている。
「何?」
「……いや、やっぱいい。そろそろお嬢様のとこ行かないと。あんまり待たせると拗ねるからな。」
一方的に締めくくって沙夜のいる方へ向かって歩き出す。
伊織は納得するわけもなく、あとを追いながら尋ねた。
「いやいや、君が良くても僕は凄い気になるよ。」
「じゃぁまた今度。」
「今度~?やれやれ、もったいぶるねぇ。」
もったいぶっているわけではない。ただ、兄だの妹だの家族だの、その話をすれば自然と「お守り」の事にも触れなくてはならなくなる。それなら、沙夜のいる所で話した方が良いと思ったのだ。
化粧箱に隠すように仕舞われた紫色の小袋。
誰にも渡す様子のないそれを、最初は沙夜本人のものだと思っていたが、すぐに違うと気付いた。
「渡すつもりはない。」
本人に直接問えば、彼女はそう答えるだろう。
けれど、きっとそれは本心じゃない。
付き合いの長い正二郎からすればバレバレの見え見えなのだが、見抜かれていると分かっていても、正直に口に出す事は出来ないのだろう。そういう時ばかり、素直になれない人なのだ。
さっき話をした時に、もしかしたら伊織の方から「僕の分は?」なんて言い出すかもしれないと思っていたが、彼はあっさり話題を変えた。正二郎ほどじゃないにしろ、伊織も沙夜とはそこそこの付き合いだというのに、彼女が自分のためにもお守りを用意していたなんて夢にも思っていないようだった。渡すかどうかはともかく、作らないわけがないのに。
ここは「兄」として、分かりやすいのに素直じゃない妹のため、さり気なく話題を出してあげよう。
それからついでに、あくまでついでに、「友達」として、人を見透かしたような事ばかり言うくせに妙に鈍感な友達のため、ほんの少しきっかけをつくってあげよう。
全く世話のかかる幼馴染み達だ。
正二郎は心中でそう呟き、沙夜の元へ向かった。
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