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翌朝、玄関先の掃除をしていると
「しょ……ろ、しょーじろぅ」
シャッシャッと箒で地面を擦る音に混じり小さな声で名を呼ばれた気がして振り返ると、柱の陰から沙夜が手招きしていた。
「何ですか?」
「昨日の話、もう忘れたんですか?さ、行くわよ!」
冗談か気まぐれだと思っていたが、本気だったらしい。用意周到にも正二郎の仕事を代わりにやってくれる人も既に見つけてきたようだ。
無駄を悟りつつ一応断ってはみたものの、近くで聞いていた清太に
「いいからさっさと行け!番頭命令だ!」
と追い出されてしまった。こうなれば仕方ない。正二郎は開き直り、とことん沙夜に付き合うことにした。
「山で何をするんです?」
山に向かい沙夜の2歩後ろを歩きながら尋ねる。
「探しものよ」
言われて昨日は無理矢理中断させて帰ったのを思いだした。
何か大切な物でも失くしてしまったのだろうか?だとしたら少し申し訳なかったと思わなくもない。
だが実際はそうではなかったらしい。
「樫の木か柏か……ううん、それより直接ドングリを探した方が早いかしら?」
「ドングリですか?何でまた?」
正二郎が尋ねると沙夜は目を輝かせて振り返った。
「あのね、南蛮にはナントカって言い伝えがあって、ドングリはナントカの象徴なんですって。それで、ナントカっていうお守りにして持っていると……えっと、確か……幸せになれる?とかナントカ。ですって!」
曖昧にも程がある。正二郎は胡乱な目で彼女を見つめた。
「それ、誰に聞いた話ですか?」
「もちろん、伊織様よ」
沙夜はドヤ顔で山の上の城を見上げた。
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