お沙夜と正二郎

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しばらくして、沙夜が手にしたドングリを見つめながら独り言のように話し始めた。 「私ね、今回の縁談の事で改めて思ったんです。本当に、当たり前のことなんだけれど……ずっとここにはいられないんだなぁって。」 何が気に入らなかったのか、沙夜は拾ったドングリをポトリと足元に落とし、違うものを探し始める。 「最初から分かっていたことなんですけどね……何か実感なくて。あの店が私の家じゃなくなって、皆も家族じゃなくなるんですよね。」 女子に産まれた以上、それは当たり前で仕方のないこと。 けれど、実際にそうなってみないと現実味なんて感じられないのだ。 「だから御守りを作ろうと思ったんです。ずっと皆の側でその幸せを願う事は出来ないから、だから代わりに、ね。ふふふ、気が早いって思うでしょ?まだ決まった訳ではないし、決まったとしてもすぐにどうこうじゃないのにね。でもじっとしていられなくて。」 そう言って沙夜は照れくさそうに、でも寂しそうに笑った。 「きっと、喜んでもらえます。」正二郎は、それ以外の言葉を見つけられなかった。
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