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山から戻って来て仕事に戻れるかと思えば、正二郎は問答無用で沙夜の部屋に連れていかれた。ドングリを入れる小袋作りまで付き合わされるようだ。
といっても正二郎は裁縫などできないし沙夜も手伝いを期待してはいないのだろう。特にやる事もなく座らされている。
「器用なもんですね。」
スイスイと動く沙夜の手元を見ながら感心して呟いた。
「当然です。この位朝飯前ですわ。」
「ついこの間まで指を刺しただ何だとギャーギャー喚いていた気がしますけど。」
「この間って、一体何年前の話をしているのかしら?」
「それはどうも失礼しました。」
からかうように、あまり感情のこもっていない言い方をすると、沙夜は一瞬微笑んでから俯き、手を止めた。
「ねぇ正二郎。私、大人っぽくなったと思う?」
「え?それは……。」
どちらと答えるべきだろう。
彼女はどちらの答えを望むのだろう。
「僕には分かりません。」
きっと、どちらも正解でどちらも不正解なのだ。誤魔化すように、わざと明るく答える。
「だってずっと側にいたんですよ?分かる訳ないでしょう?」
正二郎の答えを聞いているのかいないのか、沙夜は顔をあげずにまた手を動かし始めた。
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