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予想だにしなかった正二郎の行動に、沙夜は一瞬ポカンとしたが、すぐに顔を真っ赤に染めた。そして目が合うと慌ててザザっと後ずさり、彼の手が触れた頭の天辺を両手で押さえた。
照れて恥ずかしがるだろうとは思ったが、ここまで反応するとは意外だった。真っ赤な顔で正二郎を睨みつけながら、口をパクパクさせている。不覚にも、そんな沙夜を可愛いと思ってしまうあたり、自覚はなくとも心のどこかで彼女を妹のように思っていたのかもしれない。
「な、何なのです!?正二郎のくせに生意気ですわ!」
「はいはい、すみませんでした『姉上』。」
「い、妹です!」
沙夜の慌て様と大声に少しからかい過ぎたと反省し彼女を宥める。
「分かりました、分かりましたから落ち着いて下さい。からかってすみません。あ、御守り落ちてますよ。」
頭に手を当てた時だろう。沙夜の足元には正二郎に渡す筈の小袋が転がっていた。
「ご、ごめんなさい。」
慌てて拾って確かめると汚れてはいないようで、少し払ってから正二郎に再び差し出した。
「受け取って、貰えますか?」
「『家族』ですからね。ありがとうございます。」
そう言って御守りを懐にしまうと、沙夜は嬉しそうに微笑んだ。
自分は奉公人で彼女はお嬢様で。
今まで沙夜のことを「家族」だとか「妹」だとか、そんなふうに考えたことはなかったけれど。
それもいいかな、なんて思い始めている。
大人になりきれない、なりたくない彼女が、大人になるまで。
新しい家族のもとへ行くまで。
「兄」として、わがままな「妹」に振り回されるのも悪くない。
正二郎は密かに思った。
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