お沙夜と正二郎

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「へー、お沙夜に縁談ねぇ……。」 「うん。」 頬杖を付きながら興味なさそうに呟く「彼」に短く相槌をうち、正二郎は団子を齧った。 食感といい甘さといい、この絶妙なバランスが正二郎のお気に入りだ。特に他人の奢りで食べると尚美味しく感じる。 町外れの小さな茶屋は、その味に反していつも閑古鳥が鳴いており、「彼」のような人物と会うにはうってつけの場所だった。 「で、正二郎。その話を聞けば、僕がその縁談をぶち壊すとでも思ってるの?」 「思ってるね。絶対する。」 ぬるくなったお茶をズズと啜りながら、正二郎は淡々と断言する。 向かいに座る「彼」は、腕組みをして天井を見上げ考える素振りをした。 「まぁ……うん。そうだね。するよね、僕は。そういう男だよね、僕って。」 「そういう男だね。」 またも自信満々に言う正二郎に、「彼」は眉を寄せる。 「……君、年々遠慮がなくなってるよね?」 「『友達として接してくれ』と言ったのは君だろ?」 「いや、そうだけど。そういうことじゃなくてさ。……まぁいいや。何か癪だけど、お沙夜がお嫁に行ったら困るからね。利用されてあげるよ。あ、でもお沙夜には内緒にしてくれよ。折角縁談が無くなっても、僕が嫌われたら意味がないからね。」 「分かってるよ。あ、言っておくけど、僕はただ世間話をしただけだから。そこんとこよろしく。」 「ちゃっかりしてるなぁ。お沙夜が見たら悲しむよ?正二郎が汚い大人になっちゃってさ。」 「何とでも。じゃぁ僕はこれで。ごちそうさまでした、『伊織様』。」 最後の一口のお茶と団子を口に入れ立ち上がり、伊織に一礼して茶屋を出た。
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