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キラキラ輝く太陽を遮るように、赤黄様々に色づいた紅葉が頭上を覆い、寒いくらいの涼風が着物の裾を揺らす。
夏よりも冬に近くなった、静けさが漂う秋の山を、正二郎はザリザリと足音を立てて歩き回っていた。
「お嬢様〜!沙夜お嬢様〜!どこですかー?」
町一番の大店の一人娘は、隙あらば店を抜け出し町や山へと繰り出すお転婆お嬢様であった。
その度に見習いの身である正二郎は、過保護な店主夫妻に探しに行かされており、最早彼女を見つけることに関してはプロのようになっていた。
「あら?その声は……正二郎?」
のんびりと言いながら木の陰から顔をのぞかせたのは、正に探し人の沙夜だった。
「こんなところで何をしているのです?」
おっとりと舌足らず気味に話す声はまだ幼く聞こえるが、はっきりとした眉とシャープな輪郭、女の子にしては少し高い背は、とても齢14には思えない程大人びて見える。
「分かりきったこと聞かないで下さい。お嬢様を探しに来たんですよ。……また、見てたのですか?」
どこを、とは言わずに山の上に目を向けると、その視線を追って沙夜もそこに立つ城を見上げた。正確に言えば、その眼差しは「城」ではなくそこに住む人に向けられているのだろう。
沙夜の瞳には僅かに色が混じっていた。
まだ本人さえも気付いていないような、淡く儚い情。
正二郎はそれと似たものを、ある人の瞳の中にも見たことがあった。
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