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数日後、沙夜は再び正二郎を連れ山に来ていた。
「今日は何ですか?またドングリ拾いとか言いませんよね?」
渋々といった様子を隠そうともせず、ダラダラと沙夜の後をついていきながら正二郎は尋ねた。
「何でしょうね?何がいいですか?」
歩みを止めず顔だけで振り返って、沙夜はとぼけたように答えた。
「はぁ?目的もなく来たんですか?」
「えぇ。ここに来れば何か面白い事があるかなぁと思って。」
「いや無いでしょう。ただの山ですから。用が無いなら帰りますよ。」
素っ気なく答え山を下りようとする正二郎に、沙夜は慌てた声を出した。
「待って!用ならあります!えっと……も、紅葉狩り!……とか?」
「そんな取って付けたように言われても……」
ジトっとした目で沙夜を見つめた正二郎だったが、本当は何となく、彼女の考えている事は分かっていた。
数日前から店の外に出る度にチラチラと山の頂上を見上げたり、紫色の、例のドングリのお守り袋を取り出してきてはまた仕舞い、また出しては仕舞いを繰り返していたり。
今日もこうして山の中を歩きながら、こっそりと(といっても正二郎にはバレバレなのだが)キョロキョロ辺りを伺っていたり。
ここに来れば、会えると思っているのだろうか。
ここから見上げれば、姿が見えると思っているのだろうか。
「いいじゃない、紅葉狩り!ほら、綺麗ですよ?」
「まぁ綺麗ですけど。」
誤魔化すために言ったであろう「紅葉狩り」が案外しっくりきたのか、沙夜は満足げに笑い空を見上げた。
会いたいなら会いたいと、そう言えば良いのに。
やはりそう簡単には素直になれないのだろう。幼い頃とは違う感情が邪魔をしているのかもしれない。
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