正二郎と伊織

3/7
前へ
/26ページ
次へ
二人並んで見上げた先には、秋晴れに映える赤黄様々な紅葉が風に揺れていた。 この景色ももう少し。次から次へと季節が移り変わり、少年少女も知らず知らず大人になる。 さわさわと心地よい音を立てる木々を見ていると、なるほど、沙夜の言う大人への反抗心のようなものが理解出来るような気がしてきた。 無言で色鮮やかな空を見つめていると、ガサガサと落ち葉の上を誰かが歩く音が聞こえた。 こちらに近づいている事に気付き二人揃って振り返ると、 「やぁ、お二人さん。」 そこには町人風の軽い服装を纏った伊織が、柔和な表情で二人を見つめていた。 「伊織様?!」 「こんな所で逢引かい?妬けるねぇ。」 「逢引って……」 「伊織様こそ、こんな所で何をなさっているのです?」 口から出るのは素直じゃない言葉ばかりだが、幼さの残る顔は意図せず何もかも語ってしまうようだ。沙夜は嬉しそうに伊織に駆け寄った。 「ん〜散歩?」 彼女の気持ちに気付いているのかいないのか、伊織はとぼけた回答をする。 一般的な散歩の範囲がどれ位かは知らないが、普通山の頂上から麓まで来る事を散歩とは言わない。おそらく籠で街へ行く途中に正二郎達を見つけ無理矢理停めさせたのだろう。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加