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「まぁ!お供も連れずに?危のうございますよ?」
どこか世間知らずな面のある沙夜は伊織の言葉を信じたようだが、おそらくその辺りに従者がいるのだろう。
「大丈夫だよ、お沙夜。この山はうちの庭みたいなものだからね。それよりこの間のドングリの御守り、上手く出来たのかい?」
あぁそういえば……。
正二郎はジトっと伊織を見つめながら、あの胡散臭い御守りネタは伊織が元だった事を思い出した。
「えぇ!皆とても喜んでくれましたわ!教えて頂きありがとうございました。」
「そうか。それは良かった。正二郎、君も貰ったんだろ?効果はどう?」
ペコリと頭を下げる沙夜に優しく笑いかけた後、伊織は正二郎に意地悪そうな笑みを向けた。
「……何でわざわざそういうこと聞くかね?」
「何ですか、正二郎?折角伊織様に教えて頂いたのに、役に立たなかったとでも?」
「あ、いえ……えと、ああいうものは、いざと言う時に効果を発揮するんですよ。だから、まだ機会がなくて……。」
人差し指を立てて作り笑いを浮かべると、横に立つ伊織が小さく感心したように呟いた。
「お、上手く逃げたな、正二郎。」
「うるさい。」
小声での伊織と正二郎のやりとりは聞こえなかったらしく、沙夜は
「あら、そういうものなの?確かにそうですわね。」
とあっさり納得した。
それを見た伊織は正二郎と沙夜を交互に見て小さく笑った。
「お沙夜のそういう所は昔から変わらないな。」
「そういう所……ですか?」
「そういうってどういう?」
「別に〜。悔しいから言わないよ〜。」
「何だよ、それ。」
「教えて下さいませ、伊織様。気になるではありませんか。」
「じゃぁその内ね。あ、そうだ正二郎、この間の件だけど、上手くいったよ。」
伊織は急に思い出したかのように話題を変えた。「この間の件」というのは茶屋での「世間話」の事だろう。正二郎は内心ドキリとしたが下手に反応しては余計怪しまれるため顔には出さなかった。
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