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「奥様が心配されてましたよ。」
「大袈裟ね、お母様は。今日はちょっと、探し物をしているんです。」
「探し物?」
「えぇ。」
沙夜はキョロキョロと木の上の方を見上げながらフラフラと山の奥へ入って行く。
「ちょ、待って下さい、帰りますよ!今日はもうお終いです!」
慌てて引き止めると、沙夜は上を見たまま「どうぞ御自由に」と素っ気なく答えた。
「僕だけ帰っても意味無いんですってば。もう日も暮れますし、暗くなると危ないですから。探し物は明日にしましょう。ね?……って聞いてます?」
「聞いてますよ〜。」
歩みを止めず未だ上を見上げたまま間延びした返事をする沙夜。どうやら正二郎の言葉は右から左へ抜けているようだ。
「適当に答えないで下さい。聞いてるだけじゃダメですよ。」
「だから聞いてますよぅ。」
「……全然聞いてないし。」
正二郎はポソリと沙夜に聞こえないように呟きため息をついた。
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