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「お嬢様!」
仕方なく少し大きめの声で呼びかけ、小走りで彼女の行く手に回り込みジッと見つめる。
沙夜は正二郎を見つめ返し、諦めたように息を吐いた。
「……分かりました。全く、ずるいですね、お母様は。私が勝てないと分かってて貴方に来させるなんて。」
少し拗ねたように言う沙夜だが、これ以上抵抗する気はないらしい。チラリと山上の城を見てから、ゆるやかな斜面を下に向かって歩き始めた。
「正二郎も正二郎です。どうして貴方はいつもいつもすぐに私を見つけてしまうのかしら?」
抵抗する気はなくとも反抗はしたいのだろう。沙夜は理不尽な文句を垂れながらサクサクと地面を擦りながら歩いて行く。正二郎はその2歩程後ろを彼女の歩調にあわせてついて行った。
「どうしてって……そりゃ10年の付き合いですから。お嬢様の行きそうな所くらい見当がつきますよ。」
「理由なんて聞いてません。そういうことを言っているんじゃないんです。」
返答に納得がいかないのか、膨れっ面をして正二郎を振り返った。
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