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たとえば異世界もの
異世界ものは人気のジャンルだ。アニメ化される可能性も高い。一発当てれば大儲けできそうな気もする。でも私には書けない。登場人物が多くなると自分で把握できなくなるから。魔法もなんか違うし、戦闘シーンも描写が難しい。ことばでスリルあふれる場面を書けるひとってすごいと思うよ。
まず前提になる世界観の設定からして難しい。現実に暮らしている日本の現代社会以外の場所になると、価値観の違いや風俗習慣の差異、登場してくる種族の違いもあるだろうし、文明の進化度合いも異なってくる。それを全部自分で構築していくなど、わたしのようなボンクラにはとても無理な話だ。
そして、大きな欠点だが、わたしは女性の描写がとても苦手だ。いちおうステレオタイプな理想像というのはあるが、それをそのまま書いてもありきたりすぎて飽きられているのではないかとさえ思ってしまう。
夏目漱石は女性の描写が下手だという話を聞いたことがある。しかし、わたしはそうは思わない。
21世紀の現代に生きるわたしたちにとっては、100年以上前の価値観で描かれた漱石の世界は、いわば異世界と言ってもいいだろう。そこで出てくる女性たちには魅力が感じられることも多いのだ。
「坊っちゃん」のマドンナはいかにもすぎて遠い存在にしか感じられないが、「夢十夜」の彼女は、儚げで凛とした、読者を惹きつける不思議な魅力がある。「虞美人草」に出てくる女性ふたりの対称的な描き方は、それぞれにファンがつくような選択肢がある。
「こころ」で主人公が“先生”の遺書を読む時、想像の世界でしか感じられない先生とその友人と先生の奥さんとの関係は、妄想力を掻き立てられる。
時代を越えられなかった価値観と倫理観との葛藤。今の日本とは違う世界での判断基準はいわば一種のカルチャーショックでもある。
今流行りの異世界ものに限らず、読者はそういう“ギャップ”を楽しんでいるのかもしれない。
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