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ミステリーって
ミステリーはトリックを考える頭が無いから無理。あんなに複雑なことをよく考えられるなと思う。中には無理やりすぎると感じさせるものもあるが、それは些細なことなのだろう。売れるひとの作品は、そういう点を差し引いてもおもしろいと思わせる。
発想が鍵を握っていると思うこともあるし、さまざまな要素を組み合わせて、読者に「なるほど」と唸らせるストーリーを書くことは大事だと思うが、その上で、読後に何かを感じられるようなストーリー性を織り込むとなると、今のわたしにできるわけがない。
単発の奇抜な発想ならできるかもしれないが、それが伏線となったり、複雑な物語性に絡み合ったり隠れたりするとなると、とてもわたしの手に負えるものではない。頭の中で思いつく範囲でしかストーリーを追うことができないのに、書いている本人が忘れてしまうような先の展開までそれを保持していくなんて神業としか思えないのだ。
わたしが高校時代から愛読している坂口安吾の短編で「アンゴウ」という作品がある。その時期の安吾の作品群に特徴的な戦争を背景にしたものだ。
偶然発生した謎。もうたどることができない死者との対話。障害を持つ性の艶めかしさ。疑心暗鬼になる主人公の葛藤。それらが解決された時の読後のさわやかな印象。短いストーリーでありながら、読む者を惹きつけてやまない展開に「やられた!」という思いが強くなった作品だった。
安吾はさまざまな推理小説を書き、その分野でも名を馳せたが、その実力の面目躍如たる佳作だと思っている。
別に殺人事件が起こるわけでもなく、複雑なトリックが存在するわけでもない。どろどろとした人間の情念がぶつかり合うわけでもなく、結果はちょっと拍子抜けするような感じもあるが、それを差し置いて、時空を越えた家族からの手紙を受け取ったような不思議な印象がしてくるのだ。
正統派のミステリーとは言えないかもしれないが、心に残る掌編ではあるとわたしは思った。こういう作品が書けるようになりたいとも。
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