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明治の文豪達に会った不思議な時間旅行から一週間、文豪たちに出会った余韻に浸ることも、先生が文芸界に風穴を空けるような作品を書き上げる余裕もなく、私と津田先生はとある旧家にお邪魔していた。
「エメちゃんを、どうかあの子を見つけてください!」
こう切羽詰まって懇願しているのは、この家の奥様の梅小路清子さんだ。
「あの……、エメちゃんとは?」
「レディー・エメラルド。この家に古くから伝わるビスク・ドールだよ」
私のとても初歩的な疑問に、津田先生があっさりと答えてくれた。
「どうぞ」
清子さんの娘の梅小路貴子さんが、とても香りの良い紅茶とフルーツたっぷりのロールケーキを出してくれた。
「あら、貴子さんどうしたの?」
見ると貴子さんの指には絆創膏が巻かれ、少し血がにじんでいる
「ちょっと包丁で……」
貴子さんは恥ずかしそうに俯き答える。
「あらあら、いつも信子さんに甘えてばかりだからよ」
「もぅ、お母様! 何もお客様の前で言わなくてもいいでしょ」
「今日はお手伝いの信子さんがお休みしているもので。ほほほ。」
「津田先生、お母様、私もここでお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「私は構いませんよ」
津田先生は貴子さんが入れてくれた紅茶を一口飲んで、そう答えた。
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