4人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくが廊下に出ると同時に、目の前が何かの光に照らされた。ぼくは少し驚いて、扉を閉める手を止める。けれどすぐに、ただ家の前を車が通り過ぎただけだと分かり、ほっとした。光は、扉に嵌められた細長いガラスから入り込んできたのだ。
車が走る音が遠ざかって行く音を聞きながら、ゆっくりと足を進める。そうしていると、何かの鳴き声がしているのに気付いた。ジジジジというか、リリリリというか、ちょっと不気味な鳴き声だ。
小学校で習った歌で、松虫はチンチロリン、鈴虫はリーンリンだというのは知っているが、この変な鳴き声はどちらにも当てはまらない。でももしかしたら、松虫や鈴虫の友達なのかもしれない。
リビングに入って扉を閉めると、その鳴き声も遠ざかり、何の音も聞こえなくなってしまった。
ぼくはしばらく、しーんとしたリビングを歩き回った。ほとんどの窓は雨戸が閉められており、外の様子は分からない。でも一箇所だけ、雨戸のない小さな窓があった。少し高いところにあったので、ぼくはその窓に近づいて、背伸びしてみた。
そこからは、真っ暗になった空と、まん丸なお月さまを見ることができた。星はあまり見えなかったが、その分お月さまの光が際立っている。ぼくはそこで、このリビングを照らしているのは、このお月さまだけだということを発見した。
このお月さまは、夜の間ぼくら見守ってくれているのかもしれない。お月さまの優しい光を受けながら、ぼくは何となく、そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!