秘密の夜ふかし

5/7
前へ
/7ページ
次へ
 僕はあらためて、冷蔵庫を見上げてみた。『仮面ロイダーチョコ』と書かれた袋が、下から二段目の段に置いてある。  ぼくは思わず笑顔になっていた。そして、ほぼ反射的に、それに手を伸ばした。けれど、今度はぎりぎり手が届かない。  どうすれば取れるだろう。ぼくは考えた。  最初に思いついたのは、冷蔵庫を、棒のぼりするみたいにのぼるという作戦である。ぼくは冷蔵庫に抱きつくような体勢になり、そこからゆっくり手と足を動かしてみた。  けれど、冷蔵庫は僕にとって少し太すぎたようだ。体が裂けそうになったので、ぼくはあえなく作戦を中止した。  次にぼくは、部屋中のクッションを集めることにした。その結果、全部で五つの収穫があった。  ぼくはそれを、つみ木でタワーを作るように、冷蔵庫の前に縦に積み始めた。大きなクッションは無理矢理半分に折るなどしたら、インスタント土台の完成だ。  そのとき、ピーッピーッ、という音が、リビングに鳴り響いた。ぼくはまたしても驚いたが、すぐにそれが、冷蔵庫から鳴っているのだと気付いた。  冷蔵庫を開け放しにしたから、冷蔵庫がママの代わりに怒っているのだろうか。なんにせよ、放置するわけにはいかないので、ぼくは慌てて冷蔵庫のドアを閉めた。  冷蔵庫からは、色々な音が鳴るみたいだ。ぼくは一旦、ラジオ体操の振り付けとともに深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。  インスタント土台も組み直して、準備万端になったところで、ぼくは満を持して冷蔵庫を開け、土台に足をかけた。それは思ったより不安定で、ぼくは冷蔵庫の端を左手でつかんでバランスをとりながら、右手で『仮面ロイダーチョコ』に手を伸ばした。  乱暴に袋をつかみ取ったかと思うと、足下でインスタント土台は崩壊した。ぼくの体を支える唯一の存在となった左手も、数秒で力が入らなくなってしまう。  ぼくは、後ろから床に飛び込むしかなくなった。幸い、クッションたちが名前通りの役割を果たしてくれたため、ぼくは無傷で生還することができた。  最後に冷蔵庫のドアを閉めると、ぼくは、一人でこんな大冒険を成し遂げたことを祝福して、『仮面ロイダーチョコ』の袋を開けた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加