秘密の夜ふかし

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 右のほっぺたに、何かを押し付けられているような感触がする。ぼくは思いまぶたを動かして、ゆっくりと目をあけてみた。でもそこには、目を閉じているときと同じ真っ暗闇が広がっているだけだ。  ここはどこだろう。今ぼくは何をしてるんだろう。そんな疑問が、一瞬だけ頭に浮かぶ。ところが、それとほぼ同時に、その疑問の答えが浮かんできた。  ここは、毎晩パパとママと一緒に寝るお部屋だ。それで今日も、いつもみたいに三人で寝ていたんだ。  ぼくは横向きに寝た体勢のまま、目だけを動かして部屋を見回してみた。しばらくそうしていると、目の前で寝てるママの寝顔が、うっすらと見えるようになった。ということは、背中側ではパパが寝ているのだろう。  パパはいつもパンツ一丁になって寝るらしく、そのことでママに何回も叱られている。けれどパパは、どうしてもそうなっちゃうだと言って、困っていた。ぼくはそれを思い出して、思わずおかしくなって、くすりと笑った。  その後もぼくは、今朝みた仮面ロイダーのこととか、ママとお昼寝したこととかを思い出して、妄想にふけっていた。するといつの間にか、さっきまで真っ暗でほとんど何も見えなかったお部屋が、少し明るくなったように感じた。  今では、ママの顔どころか、壁の高いところにかけてある時計も見ることができる。よく見ると、時計の短い針が「11」のところにあるのが分かった。  ぼくは驚いた。ぼくは毎日9時になったらこのお部屋で寝かされて、それから朝の7時になるまで、一回も目が覚めたことがない。でも今日はどういうわけか、こんな遅い時間に目が覚めてしまったのだ。  もう一回寝よう、と思った。ぼくは一度、「夜ふかしって何?」とママに尋ねたことがある。そのときママは、「夜遅くまで起きて、テレビを見たり、お菓子を食べたりして遊ぶことよ。でも、絶対しちゃだめだからね」と言っていたのだ。    夜遅くまで起きてるのは、絶対しちゃだめなことだ。だから、これから朝になるまで寝ていよう。  けれどぼくは、言いつけを守ろうとする一方で、どこかわくわくした気分にもなっていた。夜遅くにテレビやゲームをしちゃだめって言うけど、それって凄く楽しいことなんじゃないか。考えてみたら、絶対しちゃだめと言われることは、大抵楽しそうなことばかりだ。  一回でいいから、そういうことをしてみたい。しちゃだめなことをしてみたい。そんな気持ちが、胸の中で膨れ上がってきて、うずうずしてくる。
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