波の町

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 エマとの会話よりかは、頭の中でほぼ様子だけが再生されていく。基本的にエマの後ろをついていくのが当たり前だったのだ。だからこの日だけは自分の中で特別だったのかもしれない。エマの背中が目の奥に現れた。  いつもは上から見ているメインストリートの周りを一瞥しても、海は見えなかった。足元の凸凹したコンクリートに足を躓きそうになりながらも、小さな足音を立て、先に行くエマについてくように歩幅を合わせていく。時にショーウィンドウの売り物を見ながら二人でとまっては、また歩き出す。目的の場所に近づくと 「もうすぐよ」  と、いっているがその時のエマは私を見てはいなかった。近づいてきたのがわかるくらいに早足になった。  着いたのは、赤レンガでできた雑貨屋だった。先に着いたエマは私に手招きした後に大きな扉を開けて、先に入っていく。運動が苦手な私は、遅れて店の前に着いた。  目の前には背伸びをして見える、低いショーウィンドウには、小さな小人と大きな木があった。大きな木の前で輪を作る人形たち。その周りに走ったり、遊んだり。一人でお昼寝をする子も。数でいうと、約20人の小人たちが春の季節の中で遊んでいるのだ。私が大きな木の扉をあけると同時に、チリンチリンとベルがなった。 「いらっしゃい。あら、お嬢ちゃんの友達かな?ゆっくりしていってね」  笑顔が素敵で、少しシワも感じる40代後半のお母さんが、物珍しそうに反応しつつも、温かく迎えてくれた。 「こんにちは」 「こんにちは」 エマに目をやると、かわいらしい男の子と女の子の人形を目をキラキラさせながら見ていた。
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