波の町

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 海の奥に丸い夕日が少しずつ入り始めた頃、ようやく海について砂浜に腰を下ろした。海が見えていた時から、小さな男の子がいるのではと、期待している自分がいた。あたりに目を向けると観光客と思われる家族の姿があった。波から押し寄せるひんやりとした風を肌に感じた。サラサラの白い砂にまだ熱が残っていたので、冷え始めた体温を上げるように砂を腕や足に乗せた。すると、エマも私と同じように砂のぬくもりを感じ始めた。 駆け回っていた分、エマも疲れ果てたようだった。少しの沈黙も心地よかった。すると、珍しく私に合わせるように声をかけてきた。 「リアは海で誰かを探しているの?」  何気ない質問のはずが、笑顔だった私の顔が一瞬ひきつった。私は冷静を保ちながら聞き返した。 「どうしてそう思うの?」 「だってあなた、海に近づくにつれてソワソワしているように見えるわ」  私の中のエマ像は、自由奔放で前しか向いてない女の子だった。エマは、気になることはすぐ聞くタイプだと思い返した。冷えた体温が上がってきたのがわかる。 「それに、サーフィンする男の子と関係があったりして」 ここまで当たっていると私が嘘をついたとしても、気が付いているのではないか。波がどんどんこちら側に向かってくる。それを避けるように、立ち上がった。ここで話してしまったら、きっとエマは彼を探し始めるに違いない。熱くなった私は、冷静を装い 「私の家から海が見えるのよ。最近サーフィンをする人が多いから言ったのよ、ただそれだけよ」 「なんだそうだったのか」  エマも立ち上がると、私が答えたことにそこまで突っ込んでは来なかった。冷たい潮風が私の体温を下げていく。私は本当のエマはどっちなのだろうと疑問に思ったが、問いかけて距離感が変わるのは、それこそ嫌だった。 「今日は楽しかったね。今度はどこにいく?」 「リアのお家に行きたいわ」  私は、先ほどの変化球に対応できなかったが、 「私の家は人を入れちゃだめってお母さんが言うのよ」  変な間を作らず、当たり前のように答えた。 「あら、残念だわ。あなたの部屋から海を見てみたかったわ」 「朝なんか磯臭くて最悪よ」  嘘をついてもお気に入りのあの景色は、独り占めしたかった。エマの顔を横目で見た。次は何を言ってくるのか表情で先読みをしようとした。まだ、私は内面をさらけ出すことができそうになかった。いつかはと、エマに話す時のシミュレーションだけが頭の中で繰り返されていた。
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