鎮魂歌

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林葉青地は、中学一年生である。 青春万歳をしている吹奏楽部で、フルートを担当していた。 入部当初、特に希望はなかったのだが。 一言で言うならば、一目惚れだったのだ。 ついでに初恋だったのだ。 一つ学年が上の五月雨ミナガという。 肩までのさらさらの黒髪を傾けて、フルートを吹く姿に魅入ったのが始まり。 新入生が各パートで指導を請う約三週間。林葉は、名ばかりの全パートへの挨拶を早々に済ませて、ミナガの元へ通い続けた。 そして、一ヶ月後のパート決めで、林葉は晴れてミナガ直属の後輩の座を得た。 本人の希望よりも、先輩たちと顧問の話し合いが重視される楽器を決めるということ。 個人の特性だの向き不向きだのそれっぽい理屈を唱えてはいるが、そんなものは建前だ。 要は、気に入ったか否か。 今後、自分たちが指導したいと思う人材であるか、いや、そんな大層なものでもないだろう。 側においても不快ではないか、面倒見てやっても良いか。所詮は、それぐらいのことなのかもしれない。 発言権がある奴は希望通りの後輩を得ることができ、逆に中ぶらりんの意見のひとつも上手く吐き出せないやつは、お荷物を押し付けられる。 そういうものだろう。 部活動なんて、社会の縮図を模した。それはそれは、小さな人間関係のあみだくじみたいなものだ。 一度ぐちゃぐちゃにこんがらかっては、解くのは難しい。 林葉の脳内には、いつも誰かの声が聞こえている。 耳鳴りみたいな雑音は、その誰かの悲鳴なのだと思っていた。
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