鎮魂歌

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音楽が聞こえる。 見知った顔たちが林葉の為に音を奏でる。 そこに、林葉だけがいなかった。 皆が悲痛な面を付けている中に、一人柔らかな笑みを浮かべている男がいた。 一年で一人だけの吹奏楽部男子部員は、同時に一年で、唯一のフルート奏者でもあった。 湯澤正孝は、代々ファーストパートの者が受け継いでいる金色のフルートを愛し、敬うように、まるで口吸いかのように、丁寧に音を撫でる。 湯澤からは、いつも錆びた鉄の臭いが漂っていた。
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