白百合は見ていた

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 彼女ともここで休憩した。ふたり雄大なパノラマへ向き岩に腰を掛けると、私は話を切り出した。その時の私の心には、この広い世界は映っていなかった。 「ここなら誰も来ないからゆっくりと話せる。それで、この前の頼みは考えてくれるのかな? 俺たちの仲じゃないか、頼むよ」 「不正の揉み消しならお門違いよ。あたしを巻き込まないで、付き合っているからって勘違いしないでよ」 「こんなに頼んでも駄目なのか――」  思い出を振り払い、目を開け里の方へと向きかえった私が、雄大に広がる景色を眺めていると、不意に「あなたもですか?」そう声を掛けられ、驚いた私が声のした方へ顔を向けると、其処には私と同じように軽装でトレッキングを楽しんでいるらしい初老の男性が、こちらへ向け登ってくる最中だった。
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