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翌日、八城くんは私に話しかけてこなくなった。これで注目されることなく過ごせると胸を撫で下ろして読みかけの本を開く。
賑やかな話し声や笑い声が響く教室内で私はほとんど口を開くことがない。
友達と笑って過ごす学校生活や、寄り道して帰る放課後を私は本の中でしか知らない。
羨ましいと思うこともあったけれど、私にはそういう学校生活は送れない。この手が人に触れてしまえば、今の日常すら終わってしまう。
『この魔女!』
私を睨みつけながら吐き出された言葉が未だに記憶から消えずにいる。もしも触れてしまえば、また孤独よりも辛いことが起きるかもしれない。
だからこそ、八城くんみたいに人懐っこくて気さくに近づいてくる人は怖い。それに私の秘密を知ってしまえば、彼の日常は変わってしまう。
そうなったときにむけられるのは、怯えるような視線か気味悪がって嫌悪する視線のどちらかだ。
黒板の方で談笑している八城くんの横顔を眺めていると、ふいにこちらを向いた。目が合ってしまった気がして咄嗟に視線を本に落とす。
せっかく距離が置けたのに、こちらからアクションを起こしてしまったら意味がなくなってしまう。居心地が急に悪くなった気がして、声をかけられる不安から逃れるように教室を出た。
指先を手のひらの中に隠すように閉じ込める。
どうか、この手だけは誰にも触れることなく学校生活を終われますように。
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