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四月の紅雨
陽だまりの匂いと乾いた空気が開いた窓の隙間から教室に吹き抜ける。
あの日から、雨が降っていない。
それはテレビのニュースで流れた悲しい事故だった。
前日に聞こえた救急車の音はこの事件だったのかとわかった瞬間、心が一気に冷えて、息苦しさを感じたのを未だに覚えている。
人の命は儚くて、別れは唐突に訪れるものだと知っていたけれど、見ず知らずの誰かが自分の家の近くで失われたことは私の日常に暗い影を落とした。
歩き慣れた道が事故の現場になるなんて、想像もしなかったのだ。
四月を迎えた今もまだ、事故を告げるキャスターの声が耳の奥に残っている。
乾いた空気から連想する降らない雨と、小説の中で綴られた事故が私の記憶を引っ張り出して、思考を連れていった。
「清白さんってさ、本好きなの?」
————また来た。
開いていた本のページをそっと閉じて、視線を上げる。
私の席の前に男子生徒が立っていた。
色素の薄い髪の毛に切れ長の目。ワイシャツは第二ボタンまで外されていて、ネクタイもだらしなく緩められている。
見た目が派手で、常に人に囲まれている彼が教室の隅で本を読んでいる私に声をかけているのは周囲も注目する出来事なのだろう。
おもしろがっている人だけでなく、女子からの視線も痛い。正直なところ、私は迷惑していた。
「私になにか用? 八城くん」
「ん? いや、話したいなって思ってさ」
さらりと笑顔で言ってみせるクラスメイトの八城千夏にため息が漏れる。
こういうところが彼が好かれる理由のひとつなのだろう。けれど、一番の理由は外見であることは間違いない。
聞こえてくる女子たちの会話はほとんどが『八城くんってかっこいい』というものばかりだ。
そんな私も端正な顔立ちの彼を目の前にすると、緊張して顔をまじまじ見ることができない。
「清白さんって坂の上中だったんでしょ?」
「……そうだけど」
「俺は西中なんだ。地元同じなんだね」
入学して約二週間。こうして八城くんが私のところに来るようになって四日が経った。
そろそろ注目が集められていることに嫌気がさしてくる。
「八城くん、少しいい?」
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