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眉根がぴくりと動いてしまった。
あだ名なんかじゃない。陰で勝手につけられていた悪口のようなものだ。
私を気味悪がって同級生たちが陰で呼んでいた。
「ごめん、不快にさせたいわけじゃないんだ」
八城くんは顔の前で両手を合わせて、申し訳なさそうに謝ってきた。
「ただ、お願いがあって」
「お願い?」
「清白さんって幽霊が視えるって本当?」
五秒くらいの沈黙がたっぷりと流れる。
どう説明をするか悩みつつも、嘘はつかないように言葉を選ぶ。
「期待に添えずに申し訳ないけれど、私に幽霊は視えないよ」
「え、そうなの?」
「うん。霊感とか全くないの。だから、きっとそのお願いっていうのは私には叶えられない」
清白紅花は怪しげな黒魔術の本を読んでいたり、幽霊と対話することができる。そんな噂が昔から私には付きまとっていた。
中学生のころは強引に肝試しに連れて行かれそうになったこともある。
修学旅行では私と同室になりたくないと騒ぎ出す女子もいた。あの頃のことを思い出すだけで胃のあたりがじくじくと痛んでくる。
「……そっか、幽霊が視えるってデマだったんだ」
「うん。だから、そういう理由だったなら、できれば教室であんな風に話しかけないでほしい。すごく注目を浴びて嫌だから」
ごめんなさいと心の中で謝る。
本当はここまできつい言い方をしたくはない。
けれど、きちんと突き放さないと彼に知られてしまうかもしれない。そのことが怖くてたまらない。
「あの……清白さん、ごめん」
八城くんは他になにか言いたげだったけれど、なるべく関わりを持たないために先に教室へと戻った。
相変わらずクラスメイトからの視線が集まってくる。急に呼び出してなにがあったのかと興味津々といった様子だった。
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