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注がれる視線に嫌気がさしたので、人のいない窓際へと行き白いカーテンの中に隠れた。
次の授業が体育のクラスの生徒たちがはしゃぎながら準備運動をしているのが目に留まる。
それは私には経験がないことだった。
いつだって、白い目で見られてしまう。中学の同級生で地元の高校に進んだ人は少なかったので、高校なら大丈夫だと思っていた。
けれど、やっぱり私には〝魔女〟がつきまとう。
長い黒髪。無表情。人と関わることを避ける。
それだけが原因ではない。
私には幽霊は視えない。これは本当だ。嘘じゃない。
けれど————
「おや、これはこれは檸檬喫茶のお孫さんの紅花様じゃないか。久しいな」
長い濃紺色の髪を左側に束ねている着物姿の男が窓枠に座っていた。
顔には蛙のような顔の白い面をつけていて表情が読み取れない。けれど、私は彼が優しいことを知っている。
「ああ、ここではあまり話さない方がよいか。人がたくさんいる場所なのだろう」
「小声ならバレないから大丈夫だよ」
カーテンで隠れているし、ここは四階なので校庭にいる生徒たちも気づかないだろう。
「それにしても随分小さくなったけど、どうしたの? 青時雨」
窓枠に座っている青時雨は手のひらサイズだった。以前会った姿は人と変わらなかったはず。
「ああ……これはいいのだ。僕が望んだことだからな」
青時雨の濃紺色の髪に指先を伸ばす。しっかりと感触がある。
幽霊ではない。いたとしても私には視えない。
私に視えるのは————あやかしと呼ばれている人ではないモノたち。
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