1年ぶりの昨日

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1年ぶりの昨日

「ここにくること、ちゃんと言ってあるの?」 たずねると、あの子は、首を横にふった 「ううん、だって、お母さんのところに帰りたい、って言うと、すごく怒られるから」 「ないしょで、準備してきたの」 言いながら、開けた、ピンクのリュックには洋服がパンパンに詰まっていた それと同じくらい、お菓子も入っていたけど、歯ブラシ、下着類、その他も、不足はなさそうだ まるで、大人が準備したみたいな… この子、こんなにしっかりしてたっけ? そんなことを思いながら、腰を上げると、あの子が、キッチンに目をむける 「ご飯つくるの?私も手伝う!」 嬉しそうに駆け寄ってくる、その姿は、あの頃と変わっていない 「お母さん、悲しかった?私たちが急にいなくなって」 2人、並んでつくる、料理も終盤、あの子が唐突に、切りだした 「あ、うん、そうだね」 「そっか、そうだよね、私もすごく悲しかった、」 「それにお母さん、ずっと、つらそうだったから、心配してたの、どっか、 痛いのかなって」 その言葉に、体が強張った そんなにわかりやすかったのか だから彼は、逃げるように出ていったのか 「ねえ、今日、ご飯、お外で食べようよ お月さま、きれいだし、」 「あー、うん、そうだね、そうしようか」 「やった!じゃあ、私、おべんとうばこ、探してくるね」 表面上で、会話を続けながらも、頭の回転は、止まらなかった もしかして、あの子は、全てを知ってたんじゃないか 彼の秘密も、私の想いも、思惑も、 あの日から、全て知っていて、今、ここにいるんじゃないか でも、だったら、どうして、あの日、もっと早く出てこなかったんだろう
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