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採光の痕
あの日、彼の帰りが遅いことは、わかっていた
だから、私は、眠そうにしているあの子に、言ったんだ
「無理しなくていいよ、眠いなら、少しあっちの部屋で寝ておいで」
「あの人が帰ってきたら、ちゃんと起こしてあげるから」
そして、あんな嘘で、彼の気をひこうとした
あの時は、だいぶ切羽詰まっていたけど、それでも、気づいていた
部屋から出てくる少し前から、あの子が起きていたこと
だからこそ、焦った
あの子が早々に出てきて、真実を話したら、どうしよう、と
でも、あの子は出てこなかった
出てきても、なにも話さなかった
もし、全てを知っていたなら、どうして
なにも言わなかったの?
怒らなかったの?
私があの人を困らせたのに
あなたを家から、追い出したのに
私を嫌わないの?
どうして、また、戻ってきたの?
今更ながら広がる後悔と、空転する頭をよそに、
窓の外では、長い夜がはじまっていた
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