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陰る濃淡
家を出るまえに、彼に電話をした
あの子からきいた、彼の番号は、私の知らない番号だった
「ああ、じゃあ、一晩だけ泊めてやってくれ」
事情を説明すると、彼はそう言って、それから、言いづらそうに、言葉をつづけた
「1年前のこと、悪かったと思ってる、でも、そういう気は、本当になくて、」
「ただ、住むところが欲しかっただけなんだ」
なにを今更、とも思ったけれど、悲しいものは、悲しい
やっぱり、彼も気づいてた、そして逃げられた
「わかってる、悪いのは私なの、ごめんなさい」
口から出たのは、自分でもびっくりするほど、平坦な声で
「いや、いろいろ助かったよ、あの子のことよろしくな、じゃあ」
これまた、渇いた彼の声を最後に、電話は切れた
久しぶりにきいた彼の声は、冷たくて、どこか疲れていた
「お母さん?どうしたの、早く、いこうよ」
あの子が呼んでる、もういかなきゃ、
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