其処に誰かが居る

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 木造平屋の一軒家に越したのは、お盆を間近にした日曜日。  真下佳奈はランドセルを机に置いて、隣の部屋へ行く。築40年だという、古びた家屋は、引っ越す前に1度見に来た時点で、佳奈を憂鬱にさせた。 「ママ、お腹空いた」  お昼を少し過ぎた頃、新しい自室となった部屋の片付けをそこそこに切り上げて、佳奈は母親の背に向けて云う。  母親の沙樹が腕時計を見て、立ち上がるとダンボールを見渡してボヤいた。 「よし。近くに蕎麦屋が在ったから、行こうか」 「佳奈はね、天ぷら蕎麦がいいな」 「ママもそれにする」  沙樹はバッグと鍵を手に、玄関へ向かった。  暖簾を潜ると、カツオ出汁の香りが店内に漂い、佳奈はクウとお腹を鳴らす。  店内はカウンターに6席とテーブル席4つのこじんまりとした店だった。 2人は天ぷら蕎麦を2つ注文して、ホッと息を吐き出す。 「パパはいつこっちに来るの?」  佳奈は運ばれたお冷やを飲みながら、携帯のフラップを開け閉めする。  佳奈の父親の隆は、新聞社に勤める記者で、佳奈の喘息を治す為、東京から新潟に引っ越したのだ。  新潟に決めたのは、近くに母方の本家が在るという事で、引っ越し場所を決めた。 「引き継ぎが済んでからだって云うから、終わったら電話来るわよ。でもあの荷物片付けるの憂鬱」  沙樹がぼやくと、佳奈は苦笑して漸く運ばれた蕎麦にありついたのだった。  夕方までに、どうにか荷物の半分を片付けた部屋を見渡して、疲れた脚を浴槽に伸ばした佳奈は、温かな湯に浸かりながら天井を見上げた。  磨り硝子の向こうで影が動くのを見て、佳奈が声を掛ける。 「ママ~シャンプーまだ見つかんないの?」  問うが、だが返事が無い。影が遠ざかり、脱衣所のドアが閉まる。 「? …ママ?」  佳奈はザバッと湯から上がり、磨り硝子の扉を開けて脱衣所を見る。 「なんだ見つからないんじゃん」  洗濯機の上や洗面台、マットの周りを見ても佳奈のパジャマとバスタオルしか見当たらない。 「無いなら無いって云ってよ」  愚痴りながら佳奈は洗髪を諦めて脱衣所を後にした。  佳奈が居間に行くと、沙樹が電話をしている所だった。 「ええお休みなさい、明日ね」
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