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電話を切ると、沙樹はふてくされた佳奈を見る。
「どうしたの?」
「ママシャンプー」
あ。と沙樹が口に手を充ててごめんと謝る。
「さっきも呼んだのに無視するし」
「呼んだ? 気付かなかったわごめんね」
絶対嘘だと佳奈は眼を眇めた。
「そうそう、さっきご近所に引っ越しの挨拶行ったら、皆さんびっくりした様子で変だったのよね」
「…変?」
佳奈は座布団に腰を下ろしてテレビのリモコンを手にする。
テレビからはお笑い番組なのか、けたたましい笑い声が聞こえ、佳奈はカチカチとリモコンで番組を変えていく。
「引っ越し場所を云うと、顔色変えて早々に家へ引っ込むのよ」
「感じ悪…」
「だからって近所の人に会っても、変な顔しないでよね」
念を押されて佳奈は盛大な溜め息を吐いた。
「しないわよ」
云って、佳奈は隣室に行きベッドに潜り込んで寝た。
誰かが佳奈の頭を撫でている。
引っ越しの疲れから、佳奈は重い目蓋を開けられない。
右横に手を伸ばすとベッドの下に在る床に触れる。
今佳奈の頭を撫でる手は……。
「…」
ゾクッと背筋が悪寒に震えた。
双眸を開くとその手の気配は消えていて、夢を見ていたのかと、佳奈は上げられない頭を枕に押し付けて、睡魔に身を委ねて行った。
朝からジワジワと暑さを感じさせる空気に、不快な湿気に包まれた部屋で目覚めた佳奈は、壁掛け時計を見上げてベッドから出た。
時間は朝の8時。
箪笥から 白いワンピースを取り出し、パジャマを脱いで着替える。
顔を洗いに脱衣所へ向かうと、磨り硝子の向こう、浴室に人影が在ってシャワーを浴びていてた。
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