其処に誰かが居る

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「おはよーママ」  蛇口を捻って水を出しながら顔を洗うと、浴室から扉が開いて、廊下に出て行く音と気配がする。 「ふう」  タオルで拭うと、背後を振り返った。  長い髪がサラサラと動いて見えなくなる。 「…誰?」  こんな早くから親戚でも来たのだろうか?  佳奈はヒョイと顔を廊下に出した。が。 「あれ?」  見た筈の姿が無い。  その時玄関の戸がガラガラと開いた。 「ママ?」  沙樹がコンビニ袋を手に、戸の鍵を掛けて靴を脱ぐ。 「あらおはよう。朝から暑いからアイス買って来ちゃった…何?」  佳奈は真っ青になって沙樹に抱き付いた。 「この家おかしいよ…」 「なあに云ってんのよ、引っ越したばっかりだから、そう思うだけよ」  そうなのだろうか?  だが佳奈は見た『者』が幻とは思えない。 「髪の長いの見たよ? ついさっき、それと夜中! 佳奈の頭誰かに撫でられたもん!!」  沙樹は双眸を見開き、廊下の奥や障子の開いた居間を見る。 「不安になると幻覚を見るのよ。ほらご飯にするから、支度手伝って」  泣きそうな顔で見上げる佳奈を見て、沙樹は溜め息を吐いた。 「佳奈の喘息を治す為に、東京から引っ越したのよ? もう引っ越しなんて出来ないのよ?」 「…」  涙をポロリと零して、佳奈は周りを見渡した。  その時家の電話が鳴った。  沙樹は居間へ行くとファックス機から受話器を上げる。 「はい、あらパパ、ええ? 今からね? 解ったわ」  受話器を置いた沙樹が佳奈へ振り返る。 「パパが駅に着いたから迎えに行ってくるわね」 「え!? 佳奈も行く!」 「あのね佳奈。不安に思うから見た気がするのよ? まだ荷物片付け終わってないから、帰るまでやっといてね」  佳奈は顔をひきつらせて、今一度部屋を見渡したのだった。  沙樹は佳奈の朝食だけを用意して、早々に車で迎えに出掛けて行った。  ひとり残された佳奈は、用意された朝食を食べる気にもなれない。  佳奈は仕方無く台所用品をダンボールから取り出した。
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