あの子がいなくなった。

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あの子がいなくなった、 私の大嫌いだったあの子がいなくなった。 真っ黒な前髪は柳のように視界を覆って、重たい一重瞼に冴えない黒縁の丸眼鏡。制服のタイなんて、指定のしかしてこなくて、サイズのあっていないブレザーは野暮ったい。痩せぎすでどんくさくて、その癖勉強もできない。なんのプラスポイントもない子。 私たちの世界ではポイントが高くないとやっていけない。 一番ポイントが高いのは外見とコミュ力が高い子。一番意見が通るのがこのタイプ。その周りに同調力の高い子が集まって、次に勉強か、運動ができる子。このふたつは、強いて仲間に引き込まれない。発言権は議題によって与えられたり、与えられなかったりする。 そして、最下層に外見もコミュ力も学力も運動神経もイマイチの子。 スクールカースト上位の子達の気分でいじられたり、相手にされなかったりする、最下層の子。 あの子はまさに最下層の子。 見ているだけでイライラするのに、四六時中何かにつけて視界に入ってきて煩わしくて、視界にはいる度、私、あの子に向かって舌打ちしてた。 上履き隠されたって何も言えなくて、貸した消しゴム千切られて捨てられても曖昧に笑って誤魔化して、調理実習の片付けも、夏休みのグループ課題も全部押し付けられてなんにも言わない。初めて買ったスマホで、LINE外しされたって、気付かない。裏であの子抜きのグループが作られてて、あの子のメッセージ晒して嘲笑されてたの、それだって気付いてなかった。 私、あの子が大嫌いだった。 どんくさくてダサくてあの子が好かれるはずなんてないのに必死でみんなの様子伺って、嫌われないように、空気にされないように、馴染めるように、そうやって合わないくせに合わせようと必死になってるのが痛かった。 それなのに授業中も休み時間トイレに行っても、給食中も、休日出掛けても、ふとした拍子にあの子は目に入った。 大嫌いだった。 でも、あの子はもういない。
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