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「イタッ!」
廊下を歩く私の肩にわざとぶつかってきたアイツ。大袈裟に肩を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
「大丈夫?」
「けっこう激しくぶつかってたよ」
アイツを取り巻く連中が心配そうに見つめる。「大丈夫、大丈夫」と笑顔を取り戻したアイツは、いきなり私を睨みつけた。
「アンタみたいな根暗な人間。廊下の端っこ歩けよな。邪魔なんだよ!」
「えっ──?」
「その暗い顔、クラスの雰囲気壊しちゃうんだよねぇ。性格変えろとまでは言わないから、せめて整形してよね」
アイツのセリフに取り巻きが甲高い声で笑う。バカみたいな表情を浮かべながら。
「みんな、知ってる? 冬木の教科書って、余白にアニメみたいなのいっぱい描いてるんだよ。超絶マニアックじゃない?」
「冬木になんて教科書借りないもーん」
「たしかに!」
またしてもドッと笑いが起こる。土足で顔面を踏みにじられているような気分になり、その場から走って逃げ出したくなった。
いつも優しく接してくれたアイツに、お礼の意味も込めて教科書を貸してやったことが何度かあった。あんなに喜んでくれてたのに──。
「じゃあ、二度と私とすれ違わないでねぇ~」
吐き捨てるように言い残し、アイツは歩いて行った。媚びるように取り巻く連中に囲まれながら。
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