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日向と日景4
「なあ、そういえばこの店の名前……なんだっけ。そ、ソレ……」
「ソレイユ エト リューヌ?」
ちょうどソレイユとリューヌの二つを食べ終えた俺は、食後のミルクティーに口づけ一息吐くと、杉山の言葉の後を引き継ぐ形でその名前を呟く。
「そう、それ! この店の看板商品のケーキにも名前が付いてるじゃん。日本語だとそれってなんて意味なんだっけ」
「太陽と月」
ポツリと、眼鏡を掛けた委員長のような同級生――宮前が口を開く。
「オーナーが双子の兄弟なんだそうだ。店の紹介文に書いてあった」
「なんか良いな、兄弟でパティシエって」
「どっちが欠けては成り立たない。二つで完成するような作品を作ってみたかったんだと」
「ふぅん、対……って奴か?」
口々に紅茶に口付けながら、ケーキから店のオーナーへと話題が移った時だった。
「そういや、双子なら此処にもいるじゃん。なあ、日向」
「あ……?」
双子という言葉から連想したのだろう。
暗に自分の兄の話題を振られたのもあり、声の温度が数段低くなる。
「あ、だって。日向クン凶暴だなぁ」
「怖い怖い。兄貴の日景とはエライ違い」
「……うるさい」
眉を寄せ、二杯目のミルクティーに口付けていく。
(飽きないモンだな、まったく……)
双子というだけで、これだ。
ただ外見が同じというだけなのに、比較されたり話のネタにされる。
「でもさぁ、日景もアレだよな。天然っていうやつ?」
「だな。いつもボケボケしててなんか頼りないっつーか」
「まあでも、女子には人気あるよな」
「人当たりはいいからな。日向と違って」
「……悪かったな。人当たりが悪くて」
友人達の言葉の数々に、胸の底にゆっくり苛立ちが蓄積される。
「……この間、日景がBクラスの子に告白されてるの見たぞ」
「え! マジで?」
「……!」
意外にも恋愛話に興味があるのか。ポツリと、宮前がそんな話題を振った。
告白、という言葉にギュッと胸が締め付けられる。けれどそんな気持ちを知りようがない友人、杉山はグイグイとその話題に食い付いてきた。
「で、返事は? オーケーしたのか? 日景の奴」
「いや。ただ、大切な人がいるから……って正直に答えて断っていたぞ」
「なぁんだ。断ったのか、つまんねぇの」
よほどそう言った恋愛話に飢えているのだろう。
ぶぅぶぅと勝手に文句を言いながら、杉山は他のネタがないかと詮索していた。
(こんなところで、聞くとは思わなかったな……)
思わぬところで、日景の告白話を聞いてしまうとは。
どうしようもできない感情に、俺は密かに眉を歪めた。
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