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「当たり前だろ。あんなバカみたいな金額のものを持ち歩くんだ。エレナやおまえを信用しないわけじゃないが、万が一こういう事態になった時のために保険に入ってるに決まってるだろ」 「そ、そうなのか……」 「無理に玲を引っ張り出したのは俺だ。責任は俺にもある」 「でも……」 「保険会社には届けるしかないだろうな。ただ、信用問題に関わるし……」  故意でないことを証明するのは大変だ。犯罪絡みかどうかも検討される。警察が絡むと営業にも差し障る。保険請求の手続きの前に可能な限り見つけ出す努力をしたいと拓馬は言った。 「あれがないと、いろいろ困る。まずはホテルに問い合わせよう。昨日から今朝の間に届いているかもしれないしな」   「届いてるかな……」 無理な気がする。 「その時はその時だ。心配するな」  いつものようにカラリと笑われて、力なく「うん」と頷きうなだれる。 「ごめん……」  拓馬がポンと玲の肩を叩く。 「とりあえず出勤準備だ。仕事は待ったなしだからな」  拓馬の言葉に玲も時計を見て立ちあがった。  冷静に対処法を聞かされ、少しだが気持ちが落ち着き始めた。自分の不注意で迷惑をかけたことは、一生忘れられないくらいに申し訳ないままだけれど。  拓馬が着替えている間にコーヒーを用意し、トーストとサラダをテーブルに並べた。  昼間に家政婦が来て掃除や夕食の準備はしてくれる。朝食の支度だけでも玲の仕事にしてもらっていた。  テレビをつけ、軽めの話題を扱う民放のワイドショー的ニュースチャンネルに合わせる。硬いニュースは新聞とネットで確認するので、食事の時はランダムに取り上げられる流行をチェックするのが拓馬の習慣だった。
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