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僕の進路はまだ決まらない
ヒーローは孤独だ。
悪の組織と戦うヒーローを、今日も僕は望遠鏡で見ている。この世界には、わかりやすく悪いことをする悪の組織の怪人たちと、彼らの悪事を止めるヒーローがいる。怪力や超能力、奇怪なメカに人造生物が登場する戦いに、一般人の出る幕はない。
5年前まで、こんなことは物語の中だけのものだった。僕だって昔は、戦うヒーローに憧れた。変身して戦う彼らに魅了され、弱きを助け強きをくじくその在り方を見習いたいと思った。そんなヒーローがもし目の前に現れたら、一般市民の枠でもいいから、何か役に立ちたいと思っていたんだ。でも、あの理解できないほど激しい戦いを実際に目の当りにしたら、『僕にできることなんて何もない』って現実を知った。近くにいることすらできなくて、僕を始めとした民衆は、皆その場から遠ざかって行った。
――でも、かっこいいんだ。
正体を隠すヘルメットマスクも、風になびくスカーフも、全身を覆うスーツも。望遠鏡の中で、白銀の衣装はきらきらと輝いていた。彼が放つ光は、昔憧れていたヒーローそのものだった。僕はその憧憬を手放せず、いつもこうして望遠鏡をのぞいている。なんとも未練がましいけれど、心に染み付いた感動はそう簡単に拭い去れなかった。
しかし、最近の世論はヒーローにも厳しい。悪の組織とヒーローが出てきたころには、ヒーローがもてはやされたものだ。世界征服の野望を高らかに叫び、自分たちの圧倒的な力で、民衆をコントロールしようとした彼らに対し真っ先に抵抗したのはヒーローだったから。でも、悪の組織と戦うたびに、毎回町が破壊される。その件について待ったをかけたのは悪の組織側だった。なんでも、『修理だのなんだので金を使わせ、民衆を弱らせることはしたくない、我々が求めているのは健康で強い市民なのだ』とのことで、悪の組織はよほどの狙いがない限り、町を破壊しないよう注意するようになった。そうなると人はギャップというものに弱い。自分に被害がなくなると知るや否や、悪の組織の肩を持つ人間も増えだした。
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