第2章、掃除婦トミエの話し

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しばらくすると、テントの入り口がめくられ静かに姉妹が出て来ました。 うわさ通り、姉は(つや)やかな黒く長い髪のとても整った顔をした細身の身体です。 そして妹は、やはり子どものように小柄で薄茶色の布袋をかぶっていました。 ふたりは、けもの道のような小路を「森」の奥へと歩き始めました。 「森」の奥には、赤いトタン屋根の平屋建ての木造家屋がありました。 そこにこの村の村長=「森」の主が、住んでいます。 姉が、家屋の玄関脇の水道の蛇口脇に置かれていた、大き目の洗面容器に水を注ぎ、黒く長い髪を洗い始めます。 姉が終わると、今度は妹が常にかぶっていた薄茶色の布袋に手をかけました。 トミエさんは息を呑みます… 驚きました。 黒人のように強く縮れた短い髪に、異様に発達した大きなひたいです。 肌も焦げ茶色でした。 姉が洗面容器にいっぱいの水を(ため)ると、妹の短い髪を洗い始めます。 それは、姉妹の親密な関係をあらわしていました。 姉は異様な容姿の妹を、(いつく)しんでいるようです。 その時です、玄関の扉が開いて村の村長=「森」の主が姿をあらわしました。 しかし、いくぶん登った白い朝陽が、かれの顔を反射させて容姿はよく見えません。 村の村長=「森」の主は、お盆に乗せたおにぎりと湯呑み茶碗を玄関脇へ置くと、ひと言声をかけて家の中へすぐに戻りました。 姉と妹が頭を下げ、白いタオルで濡れた髪を拭きながら、海苔の巻いていない白米だけのおにぎりを楽しそうに食べ始めます。 艶やかな黒く長い髪の娘と、異様な容姿の妹の姿は、とても不思議ではありましたが微笑ましい光景でした。 食事を終えると姉妹は、庭に咲く赤い花を摘み、「森」へと戻って行きました。 「森」に消える瞬間、突風が吹き樹々が異様にざわめきました。
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