終章、「森」の決意

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終章、「森」の決意

夕陽が、阿武隈山地のなだらかな稜線に隠れようとしています。 田んぼの真ん中の盛り土の上に聳える「一本松」は、東日本大震災の津波にも耐えて残りました。 「一本松」の下には、ひとりのおとこと一匹の小犬が、傘のように広がる太い枝を見上げています。 夕陽にアッシュブラウンの髪とTiffanyのsilverのサークルピアスが反射し、小型犬の白とゴールドの体毛も(まばゆ)く輝いています。 おとこは、一本の太い枝に手を添えました。 それはあの姉妹の姉が縄をかけた「展望台」と呼ばれている太い枝でした。 小型犬がワン、とひとつ吠えました。 すでに薄暗い「森」の中に、先ほどのアッシュブラウンの髪にTiffanyのsilverのサークルピアスのおとこと、白とゴールドの体毛の小型犬がやって来ました。 雑草に覆われてしまった小さな盛り土の前、それはあの姉妹の姉の墓です… ここでも小型犬がワン、とひとつ吠えました。 シー ありがとう おとこは、愛犬のシーズーのシーに語りかけます。 シー 「森」の声が聴こえてくるよ 樹々が風に揺れました。 むかし子どもの頃、この「森」の奥からピアノの音色が聴こえました。 今でも耳を澄ませば、聴こえて来そうです… 「森」の奥の、かつて村の村長=「森」の主が住んでいた赤錆びたトタン屋根の平屋建ての庭… そこにはいちめん、灌木のような子供の背丈ほどもある背の高い植物「トゥゴマ」の、棘のある赤い紡錘形(ぼうすいけい)の実がみのっていました。 ついに「森」の声が動き始めます… eab2252d-b20c-496f-b0a2-4348d81c64fd
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