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「それは……困ったな」 「困ったって、私が困りますよ。どうするんですか」  染谷が妊娠したと言ってきたのは、銀杏の実が落ちるころだった。 「まあ、その、病院に行ってもらうことになるだろうけれど」 「産むってこと?」 「いや、それが難しいわけだから、ああ、その……わかるだろう?」 「嫌ですよそんな。折角できたものを、こんなチャンス、ないかもしれないのに」 「そんなこと言ったって、一人で育てるのか?」 「柏木さん、責任取るっていう、そういうつもりはないんですか」  責任というのは、結婚をするということのようだった。  もちろん、そんなのはごめんだった。浮気のつもりでさえない。酒に酔った気の迷い。くだらない行き違い。ボタンをかけ間違えたからって、シャツを捨てる必要があるか。 「なんだお前、そんなことになってたのか」  菊池に相談をもちかけると、一緒になって考えてくれた。 「まあ、金渡して病院行ってもらうしかないだろ。相手がいないんじゃ」 「そりゃそうなんだけどさ、うんと言ってくれないんだよ」 「じゃあ俺も金出して一緒に説得するから、な、あれで染谷も頭は悪くないんだから」 「……いいのか、そこまでして貰って」 「同期の友達じゃねえか、何事もわかちあってこそだよ」  二人で説得して、しばらく。染谷は病院に行くことに同意してくれた。  部署も分かれ、柏木はようやく肩の荷が下りた気がした。菊池に深く感謝し、それからも友達付き合いをして、後に結婚式でスピーチなども頼んだ。
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