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友として(ゼロス)
クラウルが提供してくれた屋敷は、王都の立地のいい場所にあった。しかも、手入れがされている。暗府の潜伏先や秘密会談用の屋敷は月に二回程度しか掃除がされず、使うと決まった時にようやく必要な部屋だけ掃除がされることが多いのに。
不審に思ってクラウルに聞くと、意外な答えが返ってきた。
「あの屋敷は暗府の屋敷じゃなく、カールの秘密屋敷だ」
「……え?」
思わぬ答えに、ゼロスの方はあわあわした。なぜ、どうしてそうなったんだ。
「オスカルが暗府屋敷の使用許可を取ったら、そういうことならもっと綺麗な屋敷を提供すると言われてな。暗府屋敷の実情は分かっているから」
「陛下の秘密屋敷って」
「俺やヴィンを招いて、下町グルメを食べたりな。元は陛下の母君の生家だった場所だ」
「そんな場所、いいのでしょうか?」
色々恐れ多くなったゼロスが聞くと、クラウルは笑って頷いてくれた。
「カールがいいと言うのだから、いいんだろう。当日も行きたいと言っていたが、流石に問題がありそうだからと言っておいた。何よりカールが混じったら周囲が対応に困るだろ」
「あ……はははっ」
当然、色んな人が固まるだろうと推測された。
そんな事で、屋敷の掃除はなしで良くなった。陛下の屋敷は週に二度ほど掃除がされ、綺麗に整っているのだから。
「料理の方はジェイさんにお願いしたよ。アルフォンスさんにもお願いして、当日は朝から仕込みとかできるって」
あえてラウンジの一角を占拠しての会議は、それぞれ順調であるという現状報告がされる。
ランバートは今頃ファウストと一緒だ。
「お酒の手配もできたよ。前日の夜に運び込む予定」
「サロンの飾り付けも少しずつできてるよ」
酒担当のチェスター。飾り付け担当の第四コナンとクリフがそれぞれ伝える。今月の街警が第四で、屋敷に入っていっても違和感が無いことからお願いした。
会場は庭に出る事もできるサロン。いい広さがあり、窓も大きく明るくて、全員一致でここでやろうとなった。
「料理、酒、飾り付けは順調か。他は?」
「当日のブーケとか?」
「それはルイーズ様がしてくれるそうです。お礼にもならないけれどと」
「近衛府の飾る花は城を飾る花でもあるだろ。凄いな」
「当日の給仕はそれぞれか?」
「そのつもり。衣装どうする?」
「そっちは俺が手配する。衣装まではやり過ぎでも、ヴェールくらいは欲しいだろ? キア先輩のツテがあるって」
それぞれが色んなツテやルートを使ってそろえてくれる。そしてランバートには今のところ悟られていない。これはラウルやファウスト、クラウルからの話しだ。
概ね順調。そう思っていたが、どうにもコンラッドの表情は晴れなかった。
「コンラッド、どうした?」
「あぁ、うん……。この間のランバートの様子が、気になってな」
考え込むコンラッドに、一緒に遠乗りに出かけたチェスターとトレヴァーもまた同じように心配そうな顔をした。
「相当、参っているみたいなんだ。ちょっと、泣きそうになってたしな」
「ランバートが泣きそう? どれだけ追い詰められてるのそれ」
ボリスまで眉根を寄せる。その事態に、ゼロスもまた難しい顔をした。
ファウストの家の事で複雑な事になっているのは、知っている。具体的な事は分からないが、元気がなくなるくらいには参っているのだろうと思っていた。けれどまさか、泣きそうとまでは思っていなかった。
「ため込むタイプだからな、あいつ」
「心配だね。何か、話しを聞けないかな?」
「無理だと思うよ。ランバート、本当に大変な事こそ言わないだろうからね」
ドゥーガルド、コナン、レイバンの言うとおりだと思う。けれどガス抜きもまた必要そうだとは思う。
何か手を考えなければいけないだろうか。
「ランバートと、今度飲みに行くか」
それでも詳しい事は言わないだろう。それでもちょっとの事で揺れる今、何かの切っ掛けは掴めるかもしれない。危機感を感じられれば、改めて場を用意する必要もあるんだと思う。
ゼロスは早速明日にでも誘おうと、ひっそりと思うのだった。
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