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五月の提案(ゼロス)
新人も少しばかり落ち着いてきた。リタイアしたのもいたし、頑張っているのもいる。まだ本隊の訓練に合流はできないまでも、ちょっとずつ成長していくのを週末のテストの度に知ることができる。
そんな五月の中頃、ゼロスはこっそりとランバート以外の同期を集めて秘密会議を開いていた。
「この時期に集まるって事は、例のイベントかな?」
トレヴァーに頼んで酒場の一室を借りた面々は、それぞれバラバラに宿舎なりを出て集まった。酒を片手にレイバンがにやりと笑い、他の面々も楽しそうな顔をする。
「そういうことだ。相変わらずあいつ、忘れてるからな」
「去年はジェームダル侵攻の真っ只中でそれどころじゃなかったからな」
「今年はその分も沢山祝ってあげたいね」
コンラッドは去年の今頃を思い出し、コナンは柔らかく笑う。その中でゼロスは一人、厳しい顔をしていた。
それというのも一つの案があり、その為に色々と動かさなければと気合いが入っていたからだ。
「どうしたんだ、ゼロス? 何か難しいのか?」
眉根が寄りそうなゼロスの様子に、ドゥーガルドが不安そうな顔をする。周囲も僅かに首を傾げている。ゼロスは「悪い癖が移った」と思いながら眉根を指で揉みながら、自分の中にある提案を口にした。
「難しいわけじゃないんだが、ちょっと気負っていたんだ」
「何かあるのか、ゼロス?」
コンラッドが真面目な顔でこちらを見る。それに、ゼロスは頷いた。
「今年のランバートの誕生日なんだが、俺に一つ提案があるんだ」
「提案?」
レイバンとハリーが顔を見合わせ、首を傾げる。いつもはプレゼントを用意して、飲み会をして、とにかく楽しくというのが定番になりつつある。
だが今年は意味が違う。それはここしばらくのランバートの様子を見て、願った事だった。
「実は……」
ゼロスの提案を聞いた面々の顔が、徐々に難しくなっていく。コンラッドは腕を組み、レイバンも難しい顔だ。チェスターとトレヴァーもそんな様子で、ゼロスは話しながらも不安が募った。
だが、やってやりたい。自分の指にはまる指輪を見る度に、この思いは強くなっていく。
「……ゼロスの気持ちは分かったし、俺も応援したい。けれどそうなると、話しがかなり大きくなる。正直、勘の鋭いランバートにこっそり進められるかは分からないぞ」
「それに、そうなると団長達にも動いてもらわないといけない。何よりファウスト様が動かないと進まないのに、あの二人べったりだよ? どうするの?」
コンラッド、レイバンからの懸念はもっともなことだ。それについてはゼロスも大いに心配した。だがそれを考えても、してやりたいのだ。
「……僕は、してあげたい」
「コナン」
不意に上がった声に、皆の視線が集まる。コナンは真っ直ぐに全員を見て、頷いた。
「難しいかもしれないし、大変だと思う。けれど僕は、してあげたい。僕はランバートに沢山お世話になってる。今の僕が幸せなのは、ランバートがいてくれたからなんだ。そうじゃなかったら、ルイーズ様は今いなかったかもしれない」
テーブルの上に置いた手をギュッと握ったコナンを見て、他の面々もまた頷いた。
「この間、素敵なお休みをもらっちゃったしね」
「そうだな。あの時の礼が出来ていないし」
「いつもなんだかんだで世話になってるんだよね」
「僕も、ランバートがいたから今こうして王都にいるんだ。そうじゃなかったら今もまだ、下を向いて小さくなって生きてたと思う」
ハリー、コンラッド、レイバン、クリフが笑って頷く。そうなると他の面々も異議なしだ。
「何よりゼロスが、返しきれない程の恩があるんじゃないの?」
からかうようなボリスの言葉だが、実際その通りなのでなんとも言えない顔をする。まさに、その時の恩を返したいのだ。
「最近、ランバート元気がないからね。やれるだけの事をしてあげたいのは俺も同じだよ」
苦笑するボリスに、他の面々も少し心配そうな顔をした。
ランバートに元気がない。それに気づいているのはきっと、ごく少数のメンバーだけだ。おそらくファウストは気づいていないだろうと思う。ランバートはファウストには特に弱さを見せないようにしているっぽいから。
けれどゼロスは知っている。順調な同期達を見るとき少しだけ、寂しそうな顔をすること。ゼロスが指輪をもらった時、心から祝福してくれたのと同時に寂しそうな顔をしたことを。
クラウルの話しでは、どうもファウストの実家で難しい事があるらしい。ファウスト自身あまり語らないので詳細は分からないが、二人は今一つの試練の中にあるようだ。
やはり、家同士が大きいと立ち塞がる問題も大きいのだろうか。それについて小貴族でしかないゼロスには分からないが、あの二人が悩むのだから簡単じゃないのだろう。
ならば友としてしてやれることは、元気づける事しかない。大丈夫だと背中を支えてやることだけだ。
「団長達には俺から話しをする。クラウル様を通して頼んであるから」
「じゃあ、その時には俺達でラウンジ誘うわ。ラウンジなら団長達も来ないし」
「頼む」
全員が頷いて、一致団結の乾杯をする。ここから、秘密作戦の開始なのだ。
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