おまけ2・ジミ婚希望です(ゼロス)

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おまけ2・ジミ婚希望です(ゼロス)

 ランバートの婚約式は、終始笑顔が絶えなかった。それだけで企画して良かったと思う。  今はクラウルの秘密基地にいる。ひっそりと逢瀬を重ねたアパートの一室で、もらったブーケをどうしようか思案している。 「やっぱり、ドライフラワーとか?」  枯れて捨ててしまうには綺麗すぎて惜しい気がする。とりあえず今は水を吸わせているが、それでもきっと数日しかもたない。 「風通しのいい日陰に干すんだったか」 「えぇ。どこかいい場所があればいいのですが」 「暗府の地下……」 「一応神聖なものをそんなおどろおどろしい場所に置きたくありません」  人を拷問する場所に神聖なブーケを干すと、途端に汚れてしまう気がする。ゼロスは考え、この部屋の日陰に干した。 「とりあえずここに」  綺麗に出来ればいいのだけれど。思ってふと笑ったゼロスの背中に、不意に重みがかかった。 「ゼロス」 「なんでしょうか」 「俺達はいつにする?」  誘惑の声に、やはり来たかとゼロスは身構える。これを警戒しっぱなしだったのだ。  整えられていない落ちた黒髪が、クラウルの端正な顔を縁取る。普段見慣れない、どこか若さも感じる顔を見るとドキドキするが、これに絆されてはいけないと気合いを入れた。 「いつとは?」 「結婚」 「ついこの間婚約の指輪を頂いたばかりだと思いますが」 「どうして敬語なんだ」 「貴方に絆されないという俺の気合いです」 「どうしてだ? そこは喜んでくれていいだろうに」  クラウルは不満そうに唇を僅かに尖らせる。多分本人はこういう癖があるのを知らないだろう。それに仕事モードの時は絶対にしない。髪を下ろして部屋に戻ってくると、時々こんな顔をする。 「時期尚早です」 「そうでもないだろ」 「ランバートが先です」 「先に結婚してもいいと、ランバートは言っていなかったか?」 「地獄耳ですね」 「ゼロス」  ガンとして動かない姿勢を見せるゼロスに対し、クラウルは大きな駄々っ子のように背中に体重を乗せる。この人の身長差と体重でのしかかられると、かなり重いのだが。 「俺はまだ結婚するつもりはありません」 「それなら、いつならいいんだ?」 「まだそこへと気持ちが動きません。婚約したばかりですし、新人もまだ育ちません。一応教育係でもありますから、無責任に浮かれていられません」 「……ファウストに頼んで」 「職権乱用です。嫌いになりますよ」 「ゼロス!」  この人本当に、頭のネジ緩んでるんじゃなかろうか。時々本当に思う事がある。  背中から回した腕を左右に揺すり始めた。この人にこれをされるとゼロスまで揺れざるを得ないのだ。主に、筋力とかの問題か。 「……やめい!」 「どうしてまだダメなんだ?」 「気分じゃない」 「そういう空気に持っていけばいいのか?」 「そのうち自然とそうなるだろうって事です」 「……結婚式、したい」 「構いません。親族と友人だけで、小さくしてくれるなら」 「え!」 「え! ってなんですか!」  当然だと思って発した言葉にまさかのリアクション。驚いてクラウルを見ると、なんだか不満そうだ。 「ちゃんと宿泊所併設の式場でやりたい」 「俺、地味なの希望です」 「地味にするから」 「小さなレストランとかで、パーティーだけでいいです」 「誓いの……」 「勘弁してください」  今日のランバートとファウストのを見ていて、彼らだから似合うのだと思った。華やかさが違うと思った。そしてそこに、自分を重ねる事は難しかった。人前で誓いのキスは無理だ。  だが、後ろの駄々っ子は言うことを聞く気はない。もの凄く不満そうな顔をし続けている。 「俺、届を出すだけでも構いませんよ。両親には報告だけするでも」 「ゼロス」 「俺は人前でキスとか、出来ません」  そんな可愛いキャラじゃない。ガラじゃない。  クラウルはしばらく唸っていた。唸って……とりあえずうなじにキスをされた。 「っ!」 「恥ずかしがり屋な恋人を持つと複雑だ」  溜息が首筋にかかる。ついでに体重もかかる。更にうなじを舐められ、跡がつきそうなくらい吸われた。ゾクッとするのだ、本当に。 「だが、俺も諦めが悪いぞ。今のお前の気持ちを、変えてみせる」 「俺も頑固ですよ」 「さて、どちらが折れるか楽しみだ」 「ちなみに、折れてくれないならずっと敬語です」 「なに!」  黒い瞳をパッと見開くクラウルの唸るような顔を見て、ゼロスは笑った。暗府団長ともあろう人が、恋人の言動一つでこんなにも揺れるのだから。  そんなこの人が、やはり好きなんだろう。 「まぁ、時間はあります。精々俺の気持ちが変わるよう、頑張ってください」 「いい性格になったな」 「有難うございます。貴方に似てきたと、最近お褒めの言葉を頂きますよ」 「……」  悔しげに何も言えなくなったクラウルの腕の中をすり抜けて、ゼロスはさっさとベッドの中へと潜り込む。  当然のようにその背中にくっつくクラウルは誘うように弱い場所を甘噛みするが、今日ばかりは本当に眠い。 「ダメです。眠い」 「優しくする」 「出来てから言ってください」 「この間は優しかっただろ」 「俺に三時間睡眠を強いた時点で優しくありません。却下」 「ゼ~ロ~ス~」 「はいはい、寝ますよ。明日も仕事です」  大きな子供でも持ったような気分のゼロスは、それでもまんざらでも無いと思えるあたり内心笑う。これが嫌じゃないくらいには、この愛は深いのだと。 END
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