気まぐれ

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「じゃあ今日はこのシワをよーく見ながら絵を描いていこう」 「はーい」  父のうまいところは、子どもたちのやる気をちょっとくすぐるところだと思う。目の前でどんなふうに変化するのか提示して、「ちょっとレベルアップ」なんて魔法の詞をかけて。  一心不乱に、キラキラした目でスケッチブックに向き合う子どもたちを眺める。  俺にもこんな時期があった。目の前にあるもの全てに意欲的に取り組んでいた時期。いつからか全力を傾けるだけじゃなくて、少し力を抜くことを覚えた。 ・・・何か、目が怖い。  何度となく言われてきた言葉。小さい頃から少し身体が人より大きかったせいで、ちょっとぶつかっただけでも友人とふざけあってるだけでも相手が怪我をすることがあった。そのたびに「ごめんね。」を言って、怪我をさせたら親と一緒に謝った。  いつからか休み時間のドッジボールや鬼ごっこで本気を出さなくなった。体育の時間も力を抜いた。そうしたら誰も怪我をしなくなった。謝ることが減った。代わりに「無気力」「やる気ない」などと言われるようになった。
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