気まぐれ

14/25

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 約30分程のモデル業が終わった。小学生に囲まれてぐったりして、そのまま絵画教室の隅の椅子に座った。ぼんやりと子どもたちが帰って行くのを見送る。父は「途中まで送ってくる」ということで出て行った。絵画教室に初対面のさやかさんと二人きり。気まずくなるのがだるいので、帰ろうと立ち上がろうとした。 「ちょっと待って」  スケッチブックと水彩絵の具を持っていたさやかさんに声をかけられる。初めてその時にちゃんとさやかさんを見た。  サラサラの髪。化粧っ気のない顔。それでも頬はせわしなく動いたからか、少しばかり赤くなっている。 「頼みがあるの」 「頼み?」  彼女の言葉を反芻する。初対面の人に何かを頼まれる経験なんて今までない。何よりもこの雰囲気というか目つきというか、そんな俺自身のせいで初対面の人にこんなにグイグイ話しかけられた経験がない。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加