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さやかさんが手を動かす。俺の方からはそのスケッチブックに描かれている俺の姿を見ることはできない。静かになった教室に、鉛筆を走らせる音だけが空気を切り裂くように響いていく。
どこを見ていていいか分からず、そうかと言ってさやかさんばかりを見ているのも変な感じがして、何となく壁に掛かっている絵を眺めた。目の前にある海の見える風景。青い海に白波が立っている。
我は海の子 白波の
ふと頭の中で流れるメロディ。音楽の授業で習った曲を思い出す。
何となくしっかり歌うのが恥ずかしくて、口をあまり動かさないでいた。歌のテストの時も散々だったあの曲。授業中もあんまり意欲的に教科書を見ていなかったから歌詞を覚えていない。
歌詞さえ覚えていないんだけど、その曲のイメージが合いそうな絵だった。
そんなことを思い出していたから、気が付くのが遅かった。
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