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手元はよく見えないけれども、さっきよりも勢いよく手が動いているのだけは分かる。耳に響くスケッチブックにさやかさんの勢いがぶつけられる音。時々俺の方をさやかさんの視線がまっすぐと向けられる。でも、さやかさんの目は俺を見ているようで見ていない。
何かに取り憑かれたようにさやかさんが腕を動かしていく。時間にして多分、10分ほどだと思う。
「・・・ん」
ほぼ感情の見えなかったさやかさんの表情が和らいだ。彼女の周りの空気が変わるのを感じた。・・・ああ、彼女は憑依型だ。
「出来た」
さやかさんのさっきとは全く違う表情を眺める。
モノを作り出す人の中に、まるで何かに取り憑かれたように作業に没頭する人たちを見てきた。この絵画教室で見てきたので、主に絵を描く人なんだけど。俺はそういう人たちを密かに「憑依型」と心の中で呼んでいた。
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